Python業界におけるグローバルコミュニティ

こんにちは、Pythonエンジニア育成推進協会 顧問理事の寺田です。私は試験の問題策定とコミュニティ連携を行う立場です。

9月26日、27日にPyCon JPが広島で開催されます。PyCon JPは日本におけるグローバルイベントと言える存在であるため、国際色豊かです。英語での発表があったり、海外からのキーノートスピーカーがいたりしますが、とはいえ、日本でのイベントであるため、日本語を中心としているため、日本語で十分楽しめるイベントになっています。

海外でも同じように各国では様々なイベントが行われており、グローバルなコミュニティが存在しています。

今回はPython業界における、グローバルコミュニティを中心にお話をしたいと思います。

■2025年は海外カンファレンスへ積極的に参加、その理由

2025年は、たくさんの海外カンファレンスに積極的に参加しようと動いており、すでに様々な国の国際カンファレンスに赴いてきました。参加した際にはカンファレンスの主催者とコミュニケーションを取って、各国の現状を知れるようにしています。また、アジア向けのイベントを行っている別の団体のイベントの主催もしました。

なぜ今年は海外活動に力を入れることにしたのかを一言で説明するのは難しいですが、各地にある様々なコミュニティやカンファレンスは、基本的な枠組みは同じような形で行われているのに、どこの団体が主催しているかによってコミュニティの雰囲気やカンファレンスの内容に少しずつ違いや特徴があります。

私自身、長年継続してカンファレンスの主催やコミュニティ同士の連携に携わってきており、自分なりの想いや楽しみを持っています。だからこそ、海外のイベントを見ていると、どうしてこういった構成にしているのかといった部分に興味が湧いてきたのです。

今回のお話はそうした私が抱く想いや海外のイベントについてお話をしたいと考えています。

■注目の海外Pythonカンファレンス

まずは、海外で行われているPython関連のカンファレンスやコミュニティの種類、そしてその主催者や参加者はどういった人たちであるのかをお話しておきたいと思います。

以下の3つは私が実際に参加し、興味を大きく抱いたカンファレンスです。

イベント名PyCon US EuroPythonPyCon APAC
開催地北米ヨーロッパアジアパシフィック地域
開催時期4月~5月(年1回)年1回年1回
規模2500人程度1500人程度
2025年の開催5月(ピッツバーグ)7月(チェコ・プラハ)3月(フィリピン・マニラ)
2026年の開催カリフォルニア州ロングビーチ未定2026年別名で予定あり

<PyCon US>

各国に存在するPyConの中でも一番大きなイベントです。

このイベントはPython Software Foundation(PSF)が直接運営しているため、公式ならではのアナウンスや今後のリリース予定、過去の事例の紹介などが行われており、Python公式のイベントと考えていいものだと思います。Python言語とコミュニティ両方を含めたトータル的な大きなイベントになっています。

<EuroPython>

ヨーロッパ中のPythonユーザーが集まる大きなイベントです。

実はPyCon USより1年ほど早く開催され始めたイベントで、EuroPython Societyと言うボランタリーな組織によって運営されています。PyConではありませんが、概ねPyCon USと同じような構成です。

今年初めて参加しましたが、技術やPython言語にフォーカスした内容が多くなっていました。コミュニティの主催者や関係者が集まっており、コミュニティベースで作り上げている雰囲気を強く感じました。

そのためか、その時に注目が集まっている技術や興味に特化したトークが多く、また、コミュニケーションが非常に取りやすいような工夫がされていました。また、Pythonのコアデベロッパーや各種ライブラリの作成の参加が多く、ある意味、第二の公式的なイベントのような雰囲気です。ただ、PSFが主催しているものではありませんので、公式的なアナウンスはありませんし、どちらかと言えば開発者、ユーザー側を含めたコミュニティという雰囲気です。

個人的に印象に残った場面はコアデベロッパーの方たちです。

Pythonにはコアデベロッパー制度があり、日本人では1人います。今回参加したEuroPythonではコアデベロッパーから最新のPythonの話がいくつかあり、苦労話を含めて、今後改善していきたいところや、改善できたという話を生で聞けたことはとても良かったのです。また、コアデベロッパーパネルディスカッション(1時間)での質疑応答や、考えをざっくばらんにやり取りできる時間がとても印象に残っています。

この回は、スライドもなく、早口で質問と回答が繰り返されていたため、ついていくのはとても大変でしたが、全世界に散らばるコアデベロッパーの方たちは年に数回会う程度なのに、とても仲が良さそうにいろんなお話をされていました。もちろん、技術に特化した内容を議論することがほとんどだと思いますが、それ以外の場面でもいろんなコミュニケーションを取られているのだなと感じました。

仕事としてPythonを作る人は数人で、世界中にいるコアデベロッパーの方たちはそれ自体を仕事にしていない人たちばかりという、たまに会えるという関係性の仲間たちです。そんな方たちがいろんなことを仲良くディスカッションして開発を進めているのを間近に感じることができたことは、今年、EuroPythonに参加して得られた大きな一つの成果だったと思います。

私自身はコアデベロッパーではないため、その中に入っていくことはありませんが、コミュニティオーガナイザーの方たちとの2時間のディスカッションタイムがありました。各国でコミュニティを主催している人たちからの苦労話や楽しみを共有し、非常に多くのお話を聞くことができました。やはりそこでも非常に近い地域の人たち同士はとても仲良さそうでしたし、よくコミュニケーションを取っているんだろうという印象を持ちました。自分自身の関係だけでなく、海外の人たちがどうやり取りしているのか、そうした光景を見るだけでも十分楽しく過ごすことができたイベントでした。

<PyCon APAC>

アジアパシフィック地域のPyConで、日本でも以前、2度開催されています。このイベントの運営は開催国の団体がホストとなり、各国の色が出るイベントです。

英語が母国語ではない国で開催する場合は、現地語や英語などいろんな言語が飛び交います。実際、日本で開催した際は日本語と英語を半々ぐらいでトークが行われました。英語が主体的に使われているフィリピンでは、すべてのトークが英語で行われました。トークの中身やイベントは各国のホスト国が自由に作るため、そのホスト国ならではの部分があり、海外から来たユーザーも楽しめる工夫がされています。

アジアで開催されるためか、コアデベロッパーやライブラリ作者の参加はそんなに多くはありませんが、反面、実際に使っているユーザーの話や、アジアから出て海外で活躍している人材の話が聴けますし、コミュニケーションを取れる機会が作られているので、親近感のあるイベントだと思います。

現在のPyCon APACの形は2025年で終わり、2026年からは新たに2024年10月に設立されたPython Asia Organization(PAO)が主体となってアジアのカンファレンスをマネジメントしていくことになります。私はPAOの設立者のひとりとして中心的に活動しており、来年以降のカンファレンスのあり方を色々と考えています。より標準化したり、いろんな人が参加しやすいものにしたりと、多くの人が楽しめるカンファレンスにできるよう活動しています。とはいえ、PAOの在り方はPyCon APACの時とそう大きくは変わらないだろうとは考えていますが、より東アジア・南東アジアの中心的なカンファレンスになることを願っています。

2026年に向けた直近の活動として、2025年7月にオンラインでのイベント(英語)を行い、次回は冬にも開催を予定しています。

7月のオンラインイベントでは日本からはPython3.14で入る新機能の t-strings(Template Strings)の開発者の一人である青野高大さんに機能の解説をしてもらいました。

青野さんのようにPythonのコア開発に携わっているような世界で活躍しているような人は日本にもいるということを知り、日本語でもコミュニケーションを取れる機会づくりを今後も継続して続けていきたいと思います。

<小規模なイベントについて>

大規模なイベントだけでなく、50か国以上の各国でPython関連のカンファレンスが開催されています。

時間の問題で私自身はさほど多く参加したことはありませんが、ミートアップやユーザーグループイベントといった小さなイベントもありますし、地域で小規模なPyConが実施されていることもあります。こういった小規模なイベントは日本でも行われており、例えば、東京ではミートアップやハッカソンなどの勉強会を行っている小さなコミュニティが存在しています。

また、ツールや分野に特化したものもあります。例えば科学技術系やデータ分析に関するもの、Web関連ならWebフレームワークのDjangoやCMSのPloneなどのツールに特化しているカンファレンスやユーザーグループ、コミュニティが存在しています。

たくさんあるカンファレンスやコミュニティの中で、どれに参加すればいいのか悩むと思います。個人的におすすめなのは、日本で行われるPyConや、興味のある分野、好きなものに自分の時間が許す範囲でいくつかのコミュニティに参加していくことです。対象について深く知るきっかけになると思います。

■海外カンファレンスでの英語へのハードル

ところで、海外のカンファレンスに行くと、ほとんどが英語です。もちろん、同国出身者同士なら同じ言語を使いますが、なるべく共通の言語として英語を使っているというのが実情です。そうすると英語力に課題感を覚えると思います。

私自身も英語が得意と言う訳ではなく、必死で英語を理解し、何とかしゃべれるようになったというところです。英語力を身に着けるのは大変ですが、多少分からなくても助けてくれる人は周りにいますし、Pythonという共通の知識がありますので、これをキーに話を聞くことができます。英語ができないことを馬鹿にする人はほとんどいませんので、勇気を持って話しかければ楽しめると思います。

昨今はAIが発達し、テクノロジーによる解決ができるようになったため、英語の壁が非常に下がっていると思います。スマホやタブレットに同時翻訳ツールがありますので、それらを活用しながらトークを見る人もいます。

それでも参加するということは、現地の空気に触れ、誰が何を話したかをその場で知ることができ、そして最新の知識を得て、深めることができます。上手くすれば海外に友人を作ることもできます。

当然海外という不安を抱えるかもしれませんが、誰かと共に行くのでもかまいませんので、勇気をもってやってみてほしいと思います。日本からはここ数年ほどはPyCon US には6、7人、EuroPythonには4、5人がいっていますので、現地で日本人に会うこともできます。

私が参加している場合には、会えれば情報交換を出来ますし、いろいろな助けができると思います。私自身一人で参加することもありますが、全部の情報を英語で得るのは楽しいけれど大変です。日本語で情報が得られたときにはラッキーと思いますし、新たな出会いがあればより楽しめると思います。

■カンファレンスやコミュニティに参加することの意義

なぜこうも数多くのカンファレンスに時間とお金をかけて参加しているのかというと、やはり一人で学ぶのが難しいためです。

共に学ぶ仲間や、技術に詳しい人との出会いでヒントをもらうことは自分のモチベーションと成長に大きな影響があると考えていますので、いろいろなことを知れる機会があることはとても大切です。情報にあふれている現代ではすべての情報を収集しきれませんが、特定の技術を得意とする人や、先行して調べている人というのはどこかに必ずいます。

また、自分自身が新しく知ったツール、例えば最近は一般的に使われるようになってきたuvというPythonの環境設定ツールがありますが、実際にuvがどれだけ利用されているのか、本当に製品開発でもuvが使われているのか、実際に使うメリットは何かという情報は、インターネットの情報だけではなかなかわかりません。そういった情報は人との会話やカンファレンスのトークの中から聞くことができます。

もちろん、日本で行われるPyConやユーザー会、ハッカソンなどに行ってもそういう話は聞けます。そうして得た情報から国内外の違いや状況、今後の方向性といった判断を自分でできるようになります。これはいろんな人から聞くことによって得られる非常に大きな学びであると思っています。

実際問題、私が普段から専門にしていないような分野(例:RustによるPythonバインディングする)を専門的にやっている人が周りにいるため、実際のところや用途、何から学ぶべきかと言ったヒントを得て、得たヒントを基に、学ぶ方向の指標やタイミングを検討することができています。

そうした機会をなくしてしまうことは、私にとってとても辛いものであるため、海外にも積極的に足を延ばし、いろんなことを学ぶようにしています。

とはいえ、すべてのカンファレンスに行くことは無理なので、自分のできる範囲で参加するイベントを決めるようにしています。海外まではいかずとも、PyCon JPだけでも参加してみようというのでもいいと思います。

お金や時間の問題は当然ありますが、何かしら積極的にやってみることを心掛けておくと、より勉強のモチベーションをあげ、深い知識を得る機会になります。

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