【群馬県沼田市様】Pythonを活用した業務の自動化で800時間を削減

本取材は当協会の自治体支援サービスに基づいてインタビューを実施しました。

<沼田市様>
企画政策課長       星野 盾 様
DX推進室長       鳥羽 雄一郎 様
DX推進室主査    石澤 賢一郎 様
DX推進室主任 原 沙和 様

左)沼田市総務部企画政策課 主任 原沙和氏、DX推進室長 鳥羽雄一郎氏、課長 星野盾氏、主査 石澤賢一郎氏

業務の自動化を進めようと考えられた理由や当時の状況について教えてください。

星野氏)
いまや全国的に人口減少や財政状況のひっ迫といった課題が起きており、当自治体でも同様の状況にあるため、業務の効率化やスマート化を進める必要があると考えていました。以前であればOA化で人件費を削減するという時代でしたが、今は人材不足を補うためにデジタル技術を活用したトランスフォーメーションが必要な時代ということになると思います。
本市が定めている市政改革大綱などでも以前からDXに関しては言葉として書いてありましたが、令和3年度から現実的に進めることとなり、まずは業務の変革に取り掛かることになりましたが、まずはそれを実現できる人材の育成を行うことにしました。
人材育成にもっとも有効なのは実践的経験(OJT)ですが、その前に、個々の職員の知識や意識を上げると共に、本市の行政サービスに対するビジョンをしっかりと持ってもらった上でOJTを進めていきたいと考えています。

鳥羽氏)
現在、13の業務が自動化されていますが、業務改善に取り掛かる前の業務の進め方は基本的に手作業でした。例えば、あるシステムから出力されたものを手で打ち直したり、申請書をまた改めて打ち直したり、Excelを使っていても印刷用に用意された表に入力しなおすことや、紙で行う業務もまだまだ残っているというような状況した。
業務改善の中で、このような手のかかる業務を自動化することになったのですが、当初はRPAを活用しました。時間短縮効果はあったものの、費用対効果を考え、現在はPythonによる自動化に置き換えています。

RPAによる自動化でどのような効果がありましたか?

石澤氏)
令和4年度からRPAを導入し、13の業務に適用していますが、その年度の業務削減時間は年間800時間という結果でした。経費削減に関しては、有料RPAソフトのライセンス料から、国からの財政措置、削減できた時間の費用換算を差し引いて、年間60万円の効果が出ています。
ただ、2ライセンスのみの運用のため、やはり日々のRPAの実行だけでライセンスを費やしてしまうため、令和5年度は今後のメンテナンスや新規開発を考え、4ライセンスに増加しました。その結果、ライセンス料が増えて、経費削減の効果が失われてしまい、令和5年度の効果としては-30万円ほどになるのではないかと予測しています。この結果から、2年間をトータルして考えれば業務時間の削減効果としては出ていることにはなりますが、費用のことも考えると十分な効果は得られていないと考えています。
また、有料RPAはプログラミング未経験者でも使えるとされていますが、やはりプログラミングの基礎知識がないと操作が難しい点も課題です。例えば細かい処理をしようと思うと、有料RPAソフト内に組み込まれたスクリプトを編集する必要がありましたし、プログラミングの基本となるif文やループの考え方もわからないと充分な操作ができません。
よって、RPAの利用においては、限られたライセンス数では効果的な操作研修ができないことに加え、プログラミング知識が必要なことから、操作できる職員を増やすことも難しく、拡大性に欠けること、また、ライセンスにかかる費用の負担が大きいこと、業務自動化以外には使えないことなどの理由から、有料RPA以外の別のツールを探すことにしました。

最近、RPAからPythonによる自動化を進められたと伺いましたが、効果はいかがですか?

原氏)
無料で使えるものも含めていくつか使ってみましたが、比較した結果、機能的にも充足させることが出来る上、ライセンス費もかからないPythonをメインに、オープンソースのRPAソフトを使い併せて自動化していこうという結論になりました。
早速、すでに有料RPAで自動化していた13の業務をPythonに置き換えましたが、Pythonの学習を含めて開始から2か月程度で移行が完了しました。これで来年度からは、業務削減時間はそのままに、年間約250万円かかっていたライセンス費用がかからなくなりましたので、大きな効果が出ていると言えるようになりました。

2か月でPythonに変更されたということですが大変ではありませんでしたか?

原氏)
主に私と石澤で行いましたが、それまでPythonを触ったことが無い私たちでもプログラミングの基礎知識があったこともあってか、理解はそう難しいものではありませんでした。
置き換えに関しては、最初の環境構築に時間はかかりましたが、主にSelenium(セレニウム)やxlwings(エクセルウィングス)などのライブラリを使って、RPAのシナリオが作成しました。RPA化していたものの中には同じようなシナリオを使っているものがいくつかありましたので、作成したシナリオを使いまわしできる状態に持っていけたことも2か月で完了できた要因だったと思います。

Pythonをどのように使われていますか?

原氏)
市役所のシステムはデータベースになっているものが多くあります。
Pythonでは、そういったシステムと、ExcelなどのクライアントPC上にあるデータとの連携用APIのようなものを作り、データの入出力を自動化するものが多いです。これによって基本的に職員がシステム操作をせずにチェックするだけで次の作業に移れるようになっています。
例えば、証明書発行に伴う手数料に関する伝票発行業務の自動化では、POSレジから抽出したデータをExcel形式に変換して、伝票を発行する公会計システムにデータを自動入力し、伝票をプリンタで印刷するところまで全て自動化しています。この業務だけでも、年間250時間削減できています。また、使用していた有料RPAと比べて処理速度も速くなりました。

本プロジェクトの今後の展開について教えてください。

鳥羽氏)
有料RPAソフトではライセンス数が少なかったため、DX推進室の中だけでシナリオ作成をやってきましたが、今後は私たち以外の職員でも作れるように広げていこうと考えています。そのために人材育成により力を入れているところです。
人材育成は令和3年度から、外部の方をDX推進官に登用して、DX人材育成研修を7~8日間ほどかけて、しっかり研修してもらっています。この研修には各部から1、2名選抜して参加してもらっており、これまで累計28名に研修を行ってきました。
研修では、表現力・論理的思考力の向上を柱とした教育を行い、同時にプログラミングの基礎を学んでいます。当初は言語にVBAを使っていましたが、今年度からはPythonに切り替えています。

今後は、この研修を卒業した人たちに対して、DX推進室が主体となり、より実務的なPythonプログラミング教育をしていきたいと考えています。
Pythonは、自動化はもちろんですが、データサイエンスやAIなどの分野も得意な言語です。そのため、沼田市が持つデータを分析し、政策に反映するための情報を得るツールとしても活用できると考えていますので、研修でプログラミングの基礎を身に着けた職員が、そのスキルを活かして業務の裾野を広げていってほしいと考えています。

鳥羽氏)
講師であるDX推進官は、大学で数値解析を専攻し、これまで金融機関のシステム構築やマーケット分析などを手掛けられています。また教員や金融機関を対象にした研修やセミナーを数多く開かれています。
研修に用いる言語は、当初はVBAでしたが、今はPythonに変えました。講師は普段の業務でWebスクレイピングやデータ解析、AIシステムの開発などでPythonを使っていらしたので、Pythonによる研修は問題なく進められました。
この研修では表現力・論理的思考といった基本的なところから入ってもらっていますが、座学と、実際に手を動かしてプログラミングしてみるという手法を繰り返すことで、職員のスキルを向上させています。
この研修の卒業生たちを、DXサポーターに任命して、活躍していってもらう予定です。

今後、課題として考えていることはありますか?

石澤氏)
今後の展開の中で、ChatGPT等、生成AIの存在が非常に大きく影響する可能性があると思っています。実際、私たちもRPAから移行するときにChatGPTを使ってみましたが、1から書くよりもかなり早い速度で書けるという印象なので、活用においては有用なツールと言えます。ただ、ChatGPTで出されたコードを理解するにはプログラミングの基礎がないと十分には使えない部分がありますので、やはり一定の知識は必要です。また、ChatGPTの正答率は感覚として6割程度であり、ChatGPTの回答は必ず人の目で確認する必要があります。生成AIの効率的な活用方法については今後も継続して考えていく必要があると思っています。

星野氏)
職員400名全員がプログラミングできるようになるかと言えば、そうではありませんので、できれば7~8%ほどの職員がプログラムを組めたり、修正できたり、あるいは開発されたものの中身を理解し、修正できるほどにはなっていけるといいなと思います。
今後、自分たちでできるPythonプログラミングの範囲を超える開発が必要となった場合には、外注する可能性はもちろんあります。この時、プログラミングの知識があるかないかで、自分たちで出来る範囲も出てくると思いますし、外注からの納品物のチェックや価格にも差が出てきます。職員がこの辺も正確に判断できるようになっていけるといいですね。

Pythonエンジニア育成推進協会の取り組みについてはいかがですか?

星野氏)
スキルの定量化は大事ですし、スキルをきちんと見える形で出せるというのは大事なので、それをして頂けるのはありがたいですし、良い取り組みだなと思います。
ただ、現状ではPythonのプログラミングに対して誤解している職員が多いようで、今、できている人が特別だと考えているようです。まずは組織全体で書ける、読めるのが当たり前と言えるほどにレベルアップするためにも、先にプログラミングの基本やPythonの構造を理解するところから始めていきたいと思います。その後、タイミングを見て、Python3エンジニア認定試験を活用できればと考えています。

鳥羽氏)
自治体としてPythonの活用方法のひとつに、データサイエンスを考えています。Pythonを使える職員が増えれば、データ分析が出来るようになるでしょうし、そうすればデータに基づいた適切な政策提言もできるようになるのではと期待しています。
その時に、Pythonエンジニア育成推進協会が提供しているデータ分析試験は良い形で生きてくるのかなと思っています。ぜひ一緒に研究しながら進めていければいいなと考えています。

石澤氏)
個人的には、スキルの定量化は大事だと思っていますので、Python3エンジニア認定試験を受けたいと思っています。

他の自治体の方と業務改善についてお話されることはありますか?

石澤氏)
RPAを利用している自治体の中には専門業者に一括で作成を委託しているところもあるようですが、本市はすべてDX推進室職員で内製しており、運用は上手くいっている方だと考えています。ただ、ライセンス費を考えると、ボリュームディスカウントが効きやすい大規模自治体ならともかく、利用ライセンスの少ない小規模自治体ではなかなか活用を進めるにも難しく、皆さん悩まれているのではないかと思います。

Pythonによる自動化を検討されている他の自治体に一言コメントをお願いします。

星野氏)
どの自治体でもそうだと思いますが、コンピューターやプログラミングに対して拒否反応がある職員が多いかもしれません。その一方で、今の若い職員たちは、学校や大学でプログラミングに触れて育ちますので、拒否反応はありません。
自分たちの感覚がいまの時代のスタンダードではないということを認識した方が良いのではと思います。

鳥羽氏)
DXのXの部分をどうするか考え、それに対してRPAにこだわらず、Pythonで何ができるかというところまでスキルを高められるのが理想だとは思います。ただ、その前に、業務を変革するために頭を柔らかくして、行動を恐れないことが大切です。
今後、生成AIが発達していくことで、よりコードを書きやすくなるとは思いますが、今の時点でもネット上にはPythonのサンプルコードであふれていますので、不慣れでも、しり込みせずにPythonと付き合い始めることが出来ますし、上手く業務を改革していけるのではないかと思います。

石澤氏)
RPAの費用対効果で悩んでいる自治体は多いと思いますが、有料RPAの費用対効果を考えすぎると、ついRPAありきで業務改善を考えてしまいがちです。Pythonの場合は、業務改善ツールの選択肢の1つとしてPythonを使い、もっとベストな方法がある場合はそちらを選択するという柔軟な使い方ができますので、試す価値は大いにあると思います。また、Pythonは自動化以外にデータ分析などの分野に使えることもおすすめです。
私たちは今後も、業務改善の1つの武器としてPythonと上手く付き合っていきたいと考えています。

原氏)
私自身そうですが、既存の業務を、「これまで当たり前のようにずっとこうしてやってきたから、これからもこうしていくものだ」と思いながらやっている方が多くいると感じています。ですが、他者の視点から見てみると、もっと早くできる方法があるのに、と思った経験が皆さんもあると思います。
今回、業務の自動化をやってみたことで、今まで当たり前にやっていた業務のやり方を見直し、少しでも楽にできる方法はないかと考え、新たな方法に気づくというのが非常に重要だと実感しました。
今までと同じやり方ではなく、一度立ち止まって考え直すことが業務改善への一歩であると思います。

当協会の自治体支援サービスによって、本記事の内容がマイナビニュースに掲載されました。

https://news.mynavi.jp/techplus/article/20231117-2800270/

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