こんにちは、小澤です。
前回は、auto-sklearn や H2O AutoML などの AutoML(自動機械学習)ツール を紹介しました。今回は、もうひとつ、注目すべきAutoMLライブラリである PyCaret(パイキャレット)を紹介します。
PyCaretは「簡単・高速・実用的」なツールで、初心者から中級者まで幅広く使えるAutoMLフレームワークです。今回は、PyCaretの概要から特徴、基本的な使い方、さらに auto-sklearnとの違いや使い分けなども紹介したいと思います。
今回も、教科書『Pythonによる新しいデータ分析の教科書(第2版)』の「近ごろの機械学習ライブラリ」(271ページ) に関連した内容です。
1. PyCaretとは?
PyCaret(パイキャレット)は、機械学習の一連のプロセスを極限まで簡略化できるAutoMLライブラリです。煩雑な前処理やモデルの選定、パラメータチューニング、評価、保存といった流れを、わずか数行のPythonコードで完結できるのが最大の特徴です。ライブラリ内部では、scikit-learn をベースにしながら、以下のような機能を自動的に実行してくれます。
- 前処理:欠損値の補完、カテゴリ変数のエンコーディング、数値のスケーリングなど、機械学習前に必要な処理を網羅。
- 特徴量エンジニアリング:不要な特徴量の除去や新たな特徴量の生成など。
- 複数モデルの比較・選定:様々なアルゴリズムを試し、精度の高いものを自動で選出。
- ハイパーパラメータの自動チューニング:ベイズ最適化などの手法で、モデルの性能をさらに高める。
- 可視化付きの評価:混同行列(Confusion Matrix)やROC曲線などで直感的にモデルの良し悪しを把握できる。
- モデルの保存・再利用:保存したモデルは後で予測やデプロイに再利用可能。
このライブラリを使用すると、ノーコードに近い実装体験を得られます。これまで100行以上必要だった作業が、PyCaretではわずか10行前後のコードに圧縮できます。
PyCaretもpipでインストールします。ライブラリのサイズが大きく依存関係も多いため、仮想環境(venvなど)での利用が推奨されます。
| pip install pycaret |
以下のコードは、乳がんデータセット(breast_cancer)を使った分類問題の基本的な処理フローです。
| from pycaret.datasets import get_data from pycaret.classification import * # 1. scikit-learn由来の乳がんデータセットを取得 data = get_data(‘breast_cancer’) # 2. 前処理(欠損補完、カテゴリ変換、標準化など)、EDA(探索的データ分析)、学習データ・テストデータの分割などを自動で実施 clf1 = setup(data, target=’target’, session_id=123) # 3. 複数のアルゴリズム(決定木、ランダムフォレスト、LightGBM、SVMなど)を一括で学習・検証し、最も性能の良いモデルを選出 best_model = compare_models() # 4. 選ばれたモデルに対し、精度・再現率・ROC曲線・混同行列などをインタラクティブに可視化して確認可能 evaluate_model(best_model) # 5. 学習済みモデルをローカルに保存。保存形式は .pkl(pickle) save_model(best_model, ‘best_model’) |
これだけのコードで、前処理・モデル選定・評価・保存までが完結できるので、特に試作段階や、複数のモデルを素早く試したいときに強力なライブラリです。
2. 特徴とメリット
PyCaretは、機械学習に必要な一連のプロセスを、統合されたインターフェースで提供する高機能かつ実用的なAutoMLライブラリです。
- オールインワンの統合設計
データの前処理からモデルの構築、評価、さらには保存・デプロイまでを一貫して処理できる「オールインワン型」の設計が特徴です。それぞれを別々のツールやライブラリで行う必要がなく、1つのワークフロー内で完結できるため、作業の中断や工程ごとの切り替えによる混乱がありません。これにより、スムーズかつ効率的なモデリング作業が可能になります。 - 業務で使える実践的な出力
モデルの構築後すぐに予測が可能な predict_model() や、モデルをファイルに保存する save_model()、保存済みモデルの読み込み load_model() など、業務ユースに直結する関数が多数用意されています。さらに、モデルの性能をビジュアルに評価できる evaluate_model() では、混同行列、ROC曲線、残差プロットなどの可視化が自動生成されるため、報告書などのドキュメントへの転用も容易です。 - マルチモジュール対応
複数の機械学習タスクに対応する専用モジュールを備えており、以下のようにタスクに応じたAPIを選択できます。
• 分類タスク:pycaret.classification
• 回帰タスク:pycaret.regression
• クラスタリング:pycaret.clustering
• 時系列予測:pycaret.time_series
• 異常検知:pycaret.anomaly
これらはすべて、同じ構文・操作感で扱えるよう設計されており、タスクの切り替え時にも学習コストがほとんどかかりません。例えば、分類で学んだ流れをそのまま時系列予測にも応用できるため、次への展開がスムーズです。 - Jupyter Notebookとの相性がよい
PyCaretは、特にJupyter Notebookとの連携を前提に開発されているので、以下の点で優れた相性を発揮します。
• compare_models() の出力は、精度や処理時間などの指標をテーブル形式で表示し、その場で比較・選定が可能。
• グラフや評価指標がNotebook上にインラインで描画され、視覚的に分かりやすい。
• インタラクティブなモデルの評価ダッシュボードをワンクリックで起動可能。
データサイエンスの学習やPoC(概念実証)、プレゼンテーションの現場において非常に有用に使用できます。ノーコードに近い形でモデリングが可能なため、共有しながら議論を進める、といった使い方もできるでしょう。
3. Auto-sklearnとの違い
| 観点 | PyCaret | auto-sklearn |
| 対象者 | 初心者〜中級者 | 中級者〜上級者 |
| コード量 | 非常に少ない | やや多い(設定が細かい) |
| 内部処理のカスタム性 | 低〜中 | 高 |
| 内部アルゴリズムの種類 | scikit-learnベースで広範囲 | 主にscikit-learn内の分類・回帰モデル |
| 可視化機能 | 標準で豊富(グラフ付き) | ほぼなし(自作が必要) |
| UI要素 | Jupyter向けの表示あり | なし |
| 事前準備 | setupで一括 | 細かく指定 |
| 特徴量エンジニアリング | 自動 | 一部手動も必要 |
| ハイパーパラメータチューニング | 内部で自動 | Bayesian Optimizationで本格的に調整 |
AutoMLツールは万能ではないため、プロジェクトや目的に応じて選ぶ必要があります。
- PyCaretが向いているケース
• まずは手軽にモデルを試したい
• 分類・回帰・クラスタリングなど、幅広く触れてみたい
• Notebookベースでプレゼンや共有をしたい
• 業務でレポーティングや検証を繰り返す必要がある
• ML初学者や非エンジニアの参加を想定している - auto-sklearnが向いているケース
• 本番システムに組み込む精度重視のモデルが必要
• 学習時間やリソースを明確に制御したい
• 内部ロジックを細かく制御・検証したい
• 複数のモデル構成やパイプラインを試したい
• 研究開発寄りの探索や精密なチューニングを行いたい
PyCaretは便利ですが、柔軟性がやや低く、詳細なハイパーパラメータ調整や独自モデル追加には不向きです。また、auto-sklearnよりも学習時間やパフォーマンスは劣る場合もあるため、本格的な精度チューニングが必要な場合は別ツールとの併用も考えた方がよいでしょう。特にデータ量が非常に多い場合、PyCaretはやや処理が重くなる傾向があります。
4. まとめ
PyCaretは、「機械学習をもっと簡単に・早く・幅広く試してみたい」というニーズに応えるAutoMLライブラリです。前処理からモデル保存まで、わずか数行で完結するため、試作フェーズや学習用教材、業務での検証にも活用しやすいのが特徴です。一方、より本格的な精度重視や制御性を求める場合は、前回紹介したAuto-sklearnやH2O AutoMLなどの他のツールも視野に入れましょう。目的とスキルレベルに応じて、適切なツールを使い分けるのがベストです。
次回は、近年注目が高まっているmxltrendを取り上げます。mxltrendは、AI・機械学習をより 業務現場に即した形で展開できるAutoML予測分析ツールです。ビジネス現場でのデータ活用をサポート、ノーコードで予測モデルの構築・運用が可能、日本語UIでわかりやすく、操作性も高い、製造業や小売業などの予測ニーズに特化した設計といった特徴を持っており、AutoMLの中でも 「業務向け実用性」 にフォーカスした製品です。ぜひお楽しみに。
